よし、復職しよう!!

体験記、回想録、その他@復職活動

復職を目指す鬱男の回想録 第3回「プレハブ」

オリーブオイルを適当に垂らしたプレーンヨーグルトとバナナで朝食を済ませた。
スーツに着替えて最寄りの駅へ向かう。
到着した電車を見て、ため息。
超満員の車内。
否が応でも見知らぬ誰かに押し潰され、誰かを押し潰す。
雨の日なら濡れた傘が……と思うと、気が滅入りそうになる。
2駅の受難。
故郷のD県では自動車通勤だったので、電車通勤そのものにすら慣れていない。

 

真冬だというのに暑苦しい電車を降りた。
改札を抜けると200か300か、あるいはそれ以上の行列が同じ向きに歩いていく。
これは、新しい赴任先である自動車メーカーに向う群れ。
前日に通勤経路を確認していたので、すぐに分かった。
会社の玄関周辺では別ルートからの列も加わるため、付近の歩道はここの従業員で埋め尽くされている。

 

出勤初日、初めて会う同僚と待ち合わせ。
お互いに顔は知らない。
玄関にいる人待ち顔の男性を見つけ、声を掛けた。
「○○さんですか?」
「はい」
「初めまして、るしふぇりんです。よろしくお願いします」
(もちろん、実際には「るしふぇりん」とは言っていない。)
「ここ、すぐに分かりました?」
「はい、昨日確認しておいたんで」
自動車メーカーでの業務についてから既に2年が経つこの同僚は、そこでの業務を知り尽くしているのだと、新しい上司から聞いていた。
なので、後輩として業務内容の教えを請うことになる。
人懐っこそうな笑顔が印象的だった。

 

玄関を通って幾つもの角を曲がり、工場が立ち並ぶ長い直線道路を通り抜けると、巨大な街が姿を現した。
見渡す限り、大小のビルやコンビニエンスストアが建ち並ぶ。
交差点には信号待ちの大群。
バス停には1台のバスには乗り切れないほどの人達がたむろしている。
職場環境としては初めて見る規模に、こんなところで働くのか……、と感慨に耽った。

 

しばらくして立ち止まった目の前の空間は、とても異質だった。
都会的な眺めの中でその区画だけ土がむき出しで、小石が散らばっている。
そこにぽつんと建つプレハブ小屋。
ビル建設が始まる前の工事現場のような佇まいだ。
さて、ここは一体何だろう?
「ここです」と、同僚が笑顔で指差した。
「え、本当ですか?」
「本当です」
「………」
「エアコンがあるので大丈夫ですよ」
だだっ広いオフィスを想像していた頭が、「暑さ寒さなんかどうでもいいよ」と答える。
もはや罰ゲーム……
そこは一時的な仕事場であり、いずれは何れかのビルに移る予定なのだそうだ。
「いずれ」がいつ頃なのかはまったくの未定。

 

5m四方の空間に入ると、プレハブ特有の閉塞感。
歩く音がうるさい床。
キャビネット付きの机が2台、印刷機能付きのホワイトボードが1台、2台のノートパソコンとそれを保管するための鍵付き書庫が1つ、プリンターが1台。
あと掃除機が1台。いまどき紙パック式とは……。
これらが置いてあるものの全部。
窓の外には憧れのオフィスビル群。
気になるトイレは……、良かった、仮設ではない。
近くのビルのトイレを利用してよいそうだ。

 

昼食は敷地内のコンビニエンスストア、もしくは昼になるとやって来る弁当屋の二者択一。
社員食堂はいくつもあるが、何れもプレハブ小屋から遠いし、着いた頃には長い行列ができている。
食べて戻ってきたときには、午後の始業時刻をとっくに過ぎているということになり兼ねない。
初日はすっかり冷め切った弁当を食べた。

 

…続く